スタートアップのストックオプション交渉 ― 基本給以外の価値をどう見極めるか
日本のスタートアップで提示されるストックオプションは、条件によって価値が大きく変わります。ベスティングや行使価格の見方と、現実的な期待値の持ち方を整理します。
日本のスタートアップへの転職では、基本給に加えてストックオプションが提示されることが増えています。以前は一部の限られた企業だけの制度という印象がありましたが、近年はシリーズA以降の資金調達を行ったスタートアップを中心に、エンジニアやマネージャー層への提示が一般的になりつつあります。しかし、ストックオプションは基本給のように分かりやすい数字ではないため、提示された条件の価値をどう評価すればよいのか、判断に迷う人が多いのも事実です。
何個ではなく、何パーセントで考える
ストックオプションの提示を受けたとき、多くの人がまず気にするのは付与される株数です。しかし、株数そのものにはあまり意味がありません。重要なのは、その株数が会社の発行済み株式総数に対してどれくらいの割合を占めるかです。「〇〇株付与します」と言われたら、「それは発行済み株式総数の何パーセントにあたりますか」と確認することをお勧めします。この質問は、日本のスタートアップの採用担当者であれば自然に答えられる範囲の質問であり、失礼にはあたりません。
同じ株数でも、会社の規模やステージによって持つ意味はまったく異なります。シード期の会社で付与される0.5%と、シリーズC以降の会社で付与される0.5%では、将来的な価値の絶対額に大きな差が生まれる可能性があります。会社の直近の資金調達時の評価額(バリュエーション)を確認できれば、現時点でのおおよその価値感を持つことができます。
ベスティングの仕組みを確認する
ストックオプションには、通常ベスティング(権利確定)の期間とスケジュールが設定されています。日本のスタートアップでは、4年かけて段階的に権利が確定していく形が一般的で、多くの場合、入社から1年間は権利が確定しない「クリフ」期間が設けられています。つまり、入社後1年以内に退職した場合、付与されたストックオプションの権利はまったく確定しないケースがほとんどです。
確認すべきポイントは、クリフの有無とその期間、確定のペース(毎月なのか、四半期ごとなのか)、そして転職や独立などで早期に退職した場合の扱いです。これらの条件は口頭の説明だけでなく、書面での契約内容として確認しておくことが望ましく、内定条件の一部として遠慮なく質問してよい項目です。
行使価格とその後の税務上の扱い
ストックオプションには、将来その株式を購入する権利を行使する際の価格、いわゆる行使価格が設定されています。行使価格が低いほど、将来会社の株式価値が上がった際に得られる利益は大きくなります。付与のタイミングが早い(会社の評価額が低い)ほど、一般的に行使価格も低く設定される傾向があります。
また、日本では税制適格ストックオプションと税制非適格ストックオプションで、税務上の扱いが異なります。税制適格の要件を満たしている場合、株式売却時まで課税が繰り延べられるなど、手取り額に大きく影響する違いがあります。この点は法律・税務の専門的な領域になるため、提示を受けた際には、会社側に制度の設計について確認し、必要であれば税理士など専門家に相談することをお勧めします。
日本市場特有の現実的な期待値
ストックオプションの価値を検討する際、特に注意したいのは、日本のスタートアップ市場ではIPOやM&Aといったイグジット(株式の現金化が可能になる出来事)が、米国のスタートアップ市場と比べて発生の確率もタイミングも読みにくいという現実です。米国のテック業界の華々しい成功事例を基準に期待値を設定してしまうと、実際の結果との差に落胆することになりかねません。
ストックオプションは、基本給の代わりになるものではなく、あくまで将来の可能性に対する追加的な価値として捉えるのが現実的です。交渉の場面では、「ストックオプションがあるから基本給は低くても構わない」と安易に納得するのではなく、基本給・賞与・ストックオプションのそれぞれを独立した条件として検討し、生活に必要な基本給の水準は別途確保したうえで、ストックオプションを上振れの可能性として位置づけるバランス感覚が重要です。
交渉の場で聞くべきことを整理しておく
ストックオプションに関する条件は、聞き慣れない専門用語も多く、内定面談のその場で的確に質問を組み立てるのは簡単ではありません。付与割合、ベスティングスケジュール、行使価格、税制適格の有無といった項目を事前にリスト化しておき、それを一つずつ確認していく形が現実的です。基本給部分の交渉については内定後の給与交渉で扱っている考え方もあわせて参考にすると、条件全体を俯瞰しやすくなります。
Prepairの給与交渉シミュレーションでは、内定後の条件確認の場面を選び、Camを相手にストックオプションを含めた条件について質問する練習ができます。何を聞き漏らしたか、どの質問が曖昧だったかを、会話終了後のスコアと振り返りで確認できるため、実際の内定面談に臨む前のリハーサルとして役立ちます。